浄土宗神奈川教区テレホン法話 第1039話


小田原組 大見寺 木村敦英
 今回は仏教の開祖お釈迦様のお言葉を紹介したいと思います。
 お釈迦様の在世当時、キサー・ゴータミーという娘がいて嫁いだ先でかわいい男の子を生みました。はじめは貧しい家の出として軽蔑されていた彼女も、この子を生んでからは皆に大切にされるようになったそうです。ところがこの男の子が、歩けるようになったかわいい盛りのころ、突然死んでしまいました。ショックと悲しみのあまり、ゴータミーは愛児の亡骸を抱いたまま、「この子に薬をください」と家ごとに頼んで歩くということを始めてしまいました。この様子を見て憐れんだある人が、彼女にお釈迦様の所へ行くことを勧めました。彼女は言われた通りお釈迦様のもとへ行き「この子に薬をください」と頼みました。彼女の心を知ったお釈迦様は、次のように答えました。
 「よく来た、ゴータミーよ。薬は私が作ってあげよう。これから町に行って、まだ一度も死人を出したことのない家を探し、その家から芥子の粒を貰ってきなさい。」
 喜んだ彼女はさっそく町に行って探し始めましたが、そのような家があるはずもなく、やがて彼女はお釈迦様が自分に何を教えようとしているのかがわかりました。悲しみを抑えつつ我が子の埋葬を済ませた彼女が、再びお釈迦様のもとを訪れると、お釈迦様がたずねました。
 「ゴータミーよ、芥子の粒は手に入ったか。」
 「お釈迦様、もう芥子の粒は必要ありません。町中のどの家でも、死なない人など一人もないことがよくわかりました。」
 悲しみから錯乱状態にあったゴータミーに一端は希望を与え、体を使った行動に従事させ、その中で冷静な判断力を取り戻させ、そして自ら立ち直らせたものは、ひとえにお釈迦様のご指示でした。まことに優れたカウンセリング効果をもった、人の心の動きを熟知した方のお言葉だったといえるでしょう。
 次回は6月11日にお話しが変わります。また平成23年は、浄土宗の宗祖法然上人がお亡くなりになって800回忌の年に当たります。