浄土宗神奈川教区テレホン法話 第1034話

京浜組 慶岸寺 林田 康順

 みなさん、朗らかな笑顔を絶やすことなく、サービス精神旺盛な国民的歌手で、10年前に亡くなられた三波春夫さんを覚えておられますか? 大阪万博のテーマ曲「世界の国からこんにちは」の「こんにちは〜♪こんにちは〜♪」というメロディーは今でも耳に残っていますし、「お客様は神様です」の名文句はあまりにも有名です。
 歌手として有名な三波さんですが、先の大戦中に満州に出兵し、敗戦後はソビエトによる強制抑留にあい、シベリアの収容所で4年間を過ごした経験から、日本の歴史や宗教にとても造詣が深い方でした。ある時、テレビのアナウンサーが、「三波さん、日本には神さま・仏さまがたくさんおられますが、神さまと仏さまはどちらが偉いんですかね?」と質問しました。すると三波さんは、ニコッと笑みをうかべ、「ああ、それは仏さまですなあ」とお答えになりました。するとアナウンサーは「どうしてですか?」と尋ねると、三波さんは、「私は、いつも舞台で「お客様は神さまです」と申し上げてきました。ところが、私を応援してくれた多くのお客さま方も、すでにお亡くなりになり、みーんな仏さまになってしまったからですよ」とお答えになったのです。それを聞いて私は、「さすが三波さん、ウィットに富んだ見事なお答えだなあ」と感心したことがあります。
 なるほど、三波さんのお言葉のように、現在の日本では、亡くなられた方を広く「仏さま」と呼んでいます。しかし、法然上人がおられた800年前、一部の貴族や僧侶を除き、多くの庶民は、死後、地獄堕ちを免れるのが精一杯でした。そうした状況の中、法然上人は、お念仏さえ称えれば誰しも平等に浄土往生が叶い、そこで必ず仏となれるとお示しになったのです。当時の仏教界の常識からすれば、まさに革命的な法然上人のお念仏の教えは、長い歳月を経て、広く人々に受けいれられ、今のように亡くなられた方々を「仏さま」と呼ぶようになる一大契機となったのです。
 「逝く空に 桜の花が あれば佳し」、桜の花をこよなく愛した三波さんの辞世の句です。阿弥陀さまのお浄土は、所狭しと蓮の花が咲き誇っています。さしずめ、「逝く空に 蓮(はちす)の花が あるぞ佳し」と詠めましょうか。
 次回は、4月21日にお話がかわります。