浄土宗神奈川教区テレホン法話 第1029話

浄青 天然寺 関谷 泰然

 よく知られている故事で衣食足りて礼節をしるという言葉があります。確かに人間満足に食べることもできなければ、なりふりかまってられないのかもしれません。しかし日本のえらいお坊様の言葉でこのようなものもあります。道心の中に衣食(えじき)あり、衣食の中に道心なしというものです。えじきというのはいしょくのことです。道心とうのは正しい道を求める心と考えられます。つまり正しい道を求める心のなかにいしょくがあると言っておられるのです。これは先ほどの故事とは発想が逆のようにも思えます。なかにはそんなことはきれいごとであると言う人もいるかもしれません。しかし現代社会をみると衣食足りているなかで礼節はどうでしょうか。浄土宗では正しい道を求める心とはお念仏を唱える時の心といえます。衣食足りて礼節を知るを衣食足りて念仏をしると言い換えるととても違和感があります。しかし道心の中に衣食ありを念仏の中に衣食ありと言い換えるとなんだかしっくりきます。我々は食事にしても服を着ることにしても本当の意味では自分ひとりの力だけではできません。世の中のたくさんの人々とのご縁、また阿弥陀様のご加護をうけて生かされているのです。ですからありがとう、ごちそうさまといった感謝の言葉を言うこと、そして南無阿弥陀仏とお念仏を唱えることが大事なのです。つまり生活を物質的に充実させることに執着するよりも、まず感謝の気持ちをもってお念仏を唱える。そのなかで生活することがより豊かな人生へ通じているのではないでしょうか。次回は3月1日にお話が変わります。