浄土宗神奈川教区テレホン法話第981話

港北組 正受院 朝倉 和信

 京都の夏の代名詞に「祇園祭」がございます。これは、浄土宗総本山知恩院の南東に位置する八坂神社のお祭りでして、クライマックスは『山鉾巡行』という山や鉾が都大路を巡るもので、その山の一つに「白楽天山」があります。中国は唐の時代の詩人白楽天と、もう一人道林禅師という名僧のお二人がご神体として祀られております。この山の基となった故事=説話を今回はお届けいたします。
中国の唐の時代、詩人として名高い白楽天が、杭州地方の長官として赴任した頃、その地に、老松の樹上に住んでいる風変わりな、しかし高名な道林禅師という僧侶がいると聞き、白楽天はご挨拶がてら問答を挑みに行きます。「仏法の大意とは是如何に?」と尋ね、道林禅師はこう答えました。「諸悪莫作、衆善奉行、自淨其意、是諸仏教。」つまり、「悪いことをしてはいけない、善いことをしなさい、そして自分の心を浄めなさい、これが諸仏の教えである」と答えたのです。わかりやすい答えですが、これはどんな仏も説く有名な『七仏通戒の偈』という教えです。白楽天は仏教にも造詣が深いので、そんな誰でも知っている教えで返されたことにプライドを傷つけられ、憤慨したのでしょう。「そんなことは、三歳の幼児でも知っていることでしょう。」と言うと、道林禅師は「三歳の童子是を知るといえども、八十の老人是を行い難し。」つまり「そう、3歳の幼児でも知っている話だ。でも、話を知っているからといって80歳の老人でも是を実践することは難しいことなのだよ。」と答えたそうです。「知っているだけではいけないんだ。実践しなければ、仏の教えなどないに等しいことなのだ。あなたは仏の教えを実践しているのか?」対する白楽天もさすが聡明な人物です。答えの意味を察して、自分の傲慢を恥じ、深々と最敬礼して立ち去ったと伝えられております。
 祇園祭の山の名前は「白楽天山」ですが、ご神体は道林禅師と白楽天です。仏の教えを知ることだけではなく、実践することが大事なのだと、現代に生きる私達にも通じ、戒められているものだと思い、今回ご紹介いたしました。
 次回は 11月1日にお話が変わります。