浄土宗神奈川教区テレホン法話 第713話

 私にとっての4月は、切ない思いを噛みしめる月だと思います。昭和20年4月、アメリカ軍を邀えて南西諸島海域で特攻作戦が繰り広げられ、多くの同期の友を失っています。海軍14期予備学生出身で、特攻戦死した同期の酒巻一夫大尉が、出撃したその日両親へ次のように書き送っています。「南九州の基地 不連続線が去って拭ったような快晴、桜もすみれも蓮華草も菜の花も咲いています。今ぞ征く、11時発進、14時頃には敵にとっつけましょう。必ず立派にやります。父上様母上様姉上様有難うございました。みんな元気で頑張って下さい。昭和20年4月12日」今から56年前の若者の姿です。ただ只管に国の為、家族を思い苛酷な戦場で一身を抛った純粋さを後世に伝えなくてはならないと思います。海軍入隊の朝「忙しくご先祖にご挨拶。」と彼の日記にあり、父親や身内の者と一緒に菩提寺へ墓参りしている様子が窺えます。ご先祖なんていったってピンと来ない。という若い人が増えているように思われます。価値感も変わり、科学によらず医学によらず社会の凡ゆる面で変革の時代を迎えている今日、今の若い人は、どうこうと批判するつもりはありませんが、母の乳を飲み父の背に負われて育ってきた自分です。然も最近のニュースでは、小学生が母を殺し、父母が子を殺すという、痛ましいとも何んとも言葉に窮します。日本がこんな国になってしまったのか、と思うと余りにも情けない。殺人事件のニユースの流れない日はない。一国の将来は、その国の若者をみれば将来像が占えるといわれます。観無量壽経というお経には、提婆の悪企みに乗せられた皇太子が父の頻婆婆羅王を幽閉し、然も母である王妃の韋提希夫人をも殺して王位を奪おうとした時、月光という大臣が太子を押しとどめ、この世の初めから今まで国王を殺し王位を奪った非道のことはあったが母の命を断った王子のいたことはきいていませんと諌めたことが物語られています。

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